交通事故で顔に怪我が残った場合の損害賠償
1 顔の怪我と損害賠償
思いもかけずに交通事故に遭い、顔に怪我が残ってしまった場合、交通事故被害者の方はどのような損害賠償を受けることができるのでしょうか。
このページでは、交通事故で顔に怪我が残った場合の損害賠償について解説をしたいと思います。
2 後遺障害等級
交通事故に遭って顔に怪我が残ってしまった場合、残った顔の怪我が後遺障害として認められる可能性があります。
顔の怪我に関する後遺障害等級、及び、労働能力喪失率表記載の労働能力喪失率は下表のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 労働能力喪失率表の数値 | 7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | 56/100 |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | 35/100 |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | 14/100 |
※外貌(がいぼう)とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢及び下肢以外の日常露出する部分のことを言います。
参考リンク:国土交通省・自賠責保険ポータルサイト・後遺障害等級表
- ⑴ 著しい醜状を残すもの(7級12号)とは?
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「外貌に著しい醜状を残すもの」とは、原則として、以下の①~③のいずれかに該当するものを言います。
① 頭部に手のひら大以上の瘢痕、または、頭蓋骨に手のひら大(指の部分は含まれません。以下同じ。)以上の欠損があり、人目につく程度以上のもの
② 顔面部に鶏卵大面以上の瘢痕、または、10円銅貨大以上の組織陥没があり、人目につく程度以上のもの
③ 頸部に手のひら大以上の瘢痕があり、かつ、人目につく程度以上のもの
- ⑵ 相当程度の醜状を残すもの(9級16号)とは?
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「外貌に相当程度の醜状を残すもの」とは、原則として、以下の④に該当するもののことを言います。
④ 顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの
- ⑶ 醜状を残すもの(12級14号)とは?
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「外貌に醜状を残すもの」とは、原則として、以下の⑤~⑦のいずれかに該当するもののことを言います。
⑤ 頭部に鶏卵大面以上の瘢痕、または、頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損があり、人目につく程度以上のもの
⑥ 顔面部に10円銅貨大以上の瘢痕、または、長さ3センチメートル以上の線状痕があり、人目につく程度以上のもの
⑦ 頸部に鶏卵大面以上の瘢痕があり、人目につく程度以上のもの
3 労働能力喪失率
⑴ 問題の所在
上記の表のとおり、顔の怪我が後遺障害として認められた場合、労働能力喪失率表記載の労働能力喪失率は、7級12号の場合が56パーセント、9級16号の場合が35パーセント、12級14号の場合が14パーセントとなっています。
しかし、認定された後遺障害が顔の怪我のみであった場合、後遺障害による身体の運動機能への影響は存在しません。
そのため、顔の怪我が後遺障害として認められた場合でも、交通事故の相手方が加入している保険会社から、顔の怪我による労働能力への影響は存在しないはずであるとして、労働能力喪失率は0パーセントであるという主張がなされることがあります。
⑵ 労働能力喪失率の考え方
確かに、顔の怪我は、身体の運動機能とは直接関係がありません。
しかし、顔の怪我の部位・内容・大きさ、交通事故被害者の方の職業によっては、顔の怪我が労働能力へ影響する場合もあり得るところであると思われます。
そこで、以下では、交通事故被害者の方の職業に着目をし、お顔の怪我が残ってしまった場合の労働能力への影響を検討してみたいと思います(以下の類型は、あくまで一例ですので、各交通事故事件における結論は、各事案の具体的な事情によって当然異なることとなります)。
① 容姿が仕事の有無や内容に直結する職業の場合
交通事故被害者の職業が、モデルや女優・俳優など、容姿が仕事の有無や内容に密接に関わるものである場合は、お顔の傷の存在は直接労働能力に影響するものであると言えます。
このような場合は、労働能力喪失率表記載の数値どおりの労働能力喪失率が認められたり、労働能力喪失率表記載の数値よりも高い労働能力喪失率が認められたりする可能性が高くなると思われます。
② 対人関係の構築や維持することが重要となる職業の場合
交通事故被害者の職業が、容姿が仕事の有無や内容に直接的に関わるものでない場合でも、営業担当者や接客業などに就いている方は、普段の業務において人と接する機会が極めて多く、対人関係の構築や維持が職務上重要となってくるかと思われます。
顔はその人の印象を大きく左右する要素の一つですので、上記のような職業に就いている方の顔に目立つ怪我が残ってしまった場合、お客様との円滑な意思疎通ができなくなってしまうなどの業務への支障が想定されるところです。
したがって、交通事故被害者の方の職業が、人と接する機会が極めて多く、対人関係の構築や維持が職務上重要となってくるものである場合は、労働能力の喪失が認められる方向に傾きやすいかと思われます。
もっとも、具体的に労働能力の喪失率が何パーセントになるかという点に関しては、労働能力の喪失が認められるからと言って、直ちに労働能力喪失率表の数値どおりの労働能力喪失率が認められるというわけではありません。
労働能力喪失率表記載の数値を参考にしつつも、個々の事案ごとに顔の怪我が具体的にどの程度仕事に影響しているのかを検討して、労働能力喪失率が決定されることとなります。
③ ①及び②以外の職業の場合
交通事故被害者の方の職業が、あまり他人と顔を合わせる機会のないものであるなど、顔に傷があったとしても特に業務に支障がないと思われるようなものである場合は、顔の怪我による労働能力への影響が認められにくい方向に傾きます。
また、仮に労働能力の喪失が認められた場合でも、その割合は労働能力喪失率表記載の数値よりも低いものとなる可能性が高いと思われます。
このように、顔の怪我が後遺障害として残った場合の労働能力への影響の有無及び程度は、交通事故被害者の職業や業務内容によっても様々です。
そのため、顔の怪我が身体の運動機能とは直接関係がないという一事のみをもって労働能力の喪失を否定することは適当ではありませんし、また、労働能力の喪失が認められるとしても、その割合を、各事案の個別事情を考慮せずに、労働能力喪失率表に基づいて画一的に決定してしまうことも適当ではありません。
先ほども述べたとおりですが、顔の怪我の労働能力への影の有無及び程度は、顔の怪我の部位・内容・大きさ、交通事故被害者の方の職業等の様々な要素を考慮した上で、個別具体的に判断する必要があります。
4 労働能力喪失期間
後遺障害として認められたお顔の怪我については、時間の経過によってもさほど改善が期待できないものとして扱われることが多いです。
そのため、労働能力喪失期間については、特段の限定を設けず、就労可能期間の終期とされている67歳までとするケースが一般的です。
5 後遺障害慰謝料
顔の怪我を原因とする労働能力の喪失が認められなかった場合でも、顔の怪我の存在により、多大な精神的苦痛を被ったり、日常生活における対人関係に支障が生じたりしている場合もあると思われます。
そのような場合は、個別事案の具体的な事情にはよりますが、顔の怪我の部位・内容・大きさ等が後遺障害慰謝料の増額事由として用いられることがあります。
6 弁護士へのご相談
以上のとおり、交通事故が原因で顔に怪我が残ってしまった場合の損害賠償請求については、労働能力喪失率などについて、複雑な論点が多々存在します。
弁護士法人心 東京法律事務所には、後遺障害問題が得意な弁護士が所属しております。
そのため、交通事故が原因で顔に怪我が残ってしまったが、この怪我は自賠責保険における後遺障害として認定されるようなものかどうか知りたい、最終的に受け取ることのできる賠償金の額がどれくらいになりそうか知りたいという方は、一度弁護士法人心 東京法律事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
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