会社役員が交通事故に遭った際の休業損害の計算方法
1 休業損害とは
休業損害とは、交通事故によって負傷し、医師から自宅静養を指示されたり、入院や通院のために休業を余儀なくされて、収入が減少したり、有給休暇を使う等した場合、事故に遭わなければ得られたはずの収入や有給休暇を失ったことによる損害をいいます。
休業損害は、通常、事故当時の収入額の日額に休業日数を掛けて、算定されます。
会社勤めの給与所得者であれば、勤務先が作成する休業損害証明書と源泉徴収票の記載から、算定の基礎とすべき収入日額や休業日数、有給休暇利用日数等が明らかになるため、休業損害の額は、客観的に把握しやすいといえます。
2 会社役員の報酬の性質
他方、会社経営者や取締役等、会社役員の場合、その収入は、雇用契約に基づき発生する給与ではなく、委任契約に基づく役員報酬となります。
役員報酬は、労務提供の対価である給与とは異なり、実際に稼働した労務の対価部分に加えて、利益配当の実質をもつ部分とが併存しているのが一般的です。
利益配当部分は、業務に従事したか否かを問わず支払われるべき報酬ですから、裁判実務では、会社役員の報酬中、労務対価性をもたない利益配当部分が含まれる場合は、利益配当部分を除いた労務対価部分のみを収入として休業損害が算定されます。
3 会社役員の休業損害の計算方法
しかし、実際には、労務対価部分と利益配当部分との線引きが難しいため、会社役員の休業損害の計算は、容易ではありません。
一般的には、会社の規模、当該役員の地位(代表取締役か、平取締役か、名目的取締役か、監査役か等)、職務内容(専門職か、現場作業か、肉体労働か等)、他の役員や従業員の給与との比較等、様々な事情を総合考慮して、労務対価部分の有無や、労務対価部分が役員報酬全体の何割を占めるかについて判断します。
4 小規模会社、サラリーマン役員等
例えば、従業員数が数人程度にとどまる等、会社の規模が小さい場合には、会社の売上は、会社役員の労務に依存していると考えられるため、役員報酬中の労務対価部分の割合は大きくなる傾向にあります。
裁判例でも、特殊車両の設計・製作技術者として高度な専門的能力を有していたこと、会社には他に、当該役員の労務を代替できる従業員がおらず、専ら当該役員が実務を担当していたことを考慮して、役員報酬全額を労務提供の対価とみて、事故前3年間の平均年収を算定の基礎とすべき収入としました。
また、会社役員といっても、サラリーマン役員と呼ばれるように、実質的には従業員とまったく同様に働いているケースもあります。
このような場合は、当該役員の確定申告書、当該会社の決算書類、他の従業員の給与明細書等を証拠として、役員報酬のすべてが労務対価部分であると主張することを検討すべきです。
5 名目的取締役
実際には取締役として何ら稼働しておらず、名目的な取締役にすぎない場合は、役員報酬に労務対価部分は認められず、休業損害が否定されることになります。
6 同族会社の経営者等
同族会社の経営者、小規模な会社のオーナーである取締役等は、役員報酬を自由に決められるため、役員報酬中に労務対価性のない利益配当部分が含まれている可能性が高いとみられがちです。
しかし、同族会社の経営者等であっても、労務に見合う程度の役員報酬のみを得ている場合等は、法人税の確定申告書やそれに付随する決算書類等から、役員報酬中の労務対価部分の割合がどの程度かを検討すべきです。
7 交通事故に詳しい弁護士にご相談ください
このように、会社役員の休業損害の計算方法は、非常に複雑ですから、交通事故事件に詳しい弁護士に相談されるとよいでしょう。
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会社役員の休業損害
会社役員についても,休業損害が認められる可能性はあります。
ただし,会社役員は,従業員とは異なり,休業損害は認められづらくなっています。
まず,休業損害というのは,交通事故により傷害を負ってしまい,それにより仕事を行うことができず,現実に収入が減ってしまった場合のその補償です。
そのため,仮に休業しなければならなかったとしても,元々決められていた金額のとおりに報酬が支払われた場合には,収入は減っていないので,休業損害は発生しないことになります。
会社役員の方の場合,契約で報酬が決められており,期間中の減額ができないことが多いため,休業しても収入が減少しないことが多いです。
そのため減収がないとして,休業損害が否定されることが多いのです。
次に,会社役員については,仮に減額があったとしても,交通事故が原因で減額されたか,すなわち因果関係が争われることも多いです。
会社役員は任期中,契約で定められた額の報酬が支払われるのが通常であるため,減額と事故との因果関係が認められないことがあるのです。
また,一人会社のように,一見役員に減収がないように見えても,会社の損失を事実上補填しているなど,実質的には損害を受けている場合もあります。
その場合には,その損害を請求できることもありますが,その立証は専門家でないと難しいです。
さらに,会社役員といっても従業員と実質変わらないというケースがあります。
そのような場合には,実質的に給与所得者と同様であるとして,給与所得者の休業損害の計算方法が用いられることがあります。
しかし,勤務の実態がどのようなものかということについても,やはり立証は専門的であり,難しいことが少なくありません。
会社役員の休業損害については,多くの場合で法律上の問題が生じています。
その損害を適切に主張,立証するためには,専門家の助力が必要です。
休業損害でお困りの方は,早めに弁護士に相談する方がよいでしょう。
東京で交通事故に関してお困りの際は,弁護士法人心 東京法律事務所にご相談ください。