東京で『交通事故』に強い弁護士

シートベルトを装着していなかった場合の過失割合

  • 文責:所長 弁護士 石井浩一
  • 最終更新日:2021年3月10日

1 シートベルトと過失相殺

交通事故の被害者の方が事故当時シートベルトを着用していなかった場合、相手方が加入している保険会社から、シートベルトの不着用を理由に過失相殺を主張される場合があります。

2 過失相殺の可否

そもそも、過失相殺とは、損害の発生・拡大について、被害者側にも何らかの過失がある場合に、賠償額を減額することを言います。

シートベルトは、自動車の運転者や同乗者の生命や身体の安全を確保するためのものですので、シートベルトの着用を怠っていると、そのことによってシートベルトを着用していたのであれば発生するはずのなかった損害が発生してしまったり、シートベルトを着用していた場合よりも損害が大きくなってしまったりすることがあります。

このような場合は、まさに、「損害の発生や拡大についてシートベルトの不着用という被害者の過失が寄与した。」と認められ、過失相殺がなされてしまう恐れがありますし、実際に、被害者側のシートベルトの不着用を理由に過失相殺を肯定した裁判例も多数存在します。

3 過失相殺減額の程度

シートベルトの不着用を過失相殺がなされるとした場合、過失相殺による減額の割合が問題となります。

この点については、個々の事例においてシートベルトの不着用が損害の発生ないし拡大に寄与した程度を明らかにすることによって、どの程度の減額がなされるかが変わってきます。

4 交通事故の法律相談

以上のとおり、交通事故の被害者がシートベルトを着用していなかった場合は、過失相殺による賠償額の減額がなされる恐れがあります。

参考リンク :警察庁・全ての座席でシートベルトを着用しましょう

そのため、自動車に乗る際には必ずシートベルトを着用するように心がけることをおすすめいたします。

もし、交通事故の相手方が加入している保険会社から、シートベルトをしていなかったことを理由に過失相殺による賠償額の減額を主張されてしまった場合は、交通事故に詳しい弁護士に法律相談されるのがよいかと思います。

東京で交通事故でお悩みの際は、弁護士法人心 東京法律事務所までご相談ください。

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シートベルト未装着の交通事故の過失割合に関する裁判例

1 シートベルト装着義務

道路交通法は,自動車の運転者はもちろんのこと,自動車の助手席や後部座席に乗車する同乗者についても,原則として,シートベルトの装着を義務付けています(同法71条の3第2項,同第3項)。

例外として,疾病,妊娠中等のためシートベルトを装着することが療養上,健康保持上適当でない者,著しく座高が高いまたは低い,著しく肥満している等の身体の状態により適切にシートベルトを装着することができない者等,やむを得ない理由があるときは,装着義務が免除されます。

なお,道路交通法上,装着義務の名宛人は運転者となっているので,助手席や後部座席に乗車する同乗者が装着義務を負っているのではなく,運転者が同乗者に装着させる義務を負っています。

2 シートベルト未装着の過失相殺

交通事故によるシートベルト未装着時の致死率は装着時の致死率より格段に高い等,シートベルト未装着によって被害が拡大し得ることは,各種統計から明らかになっています。

そのため,裁判実務において,助手席や後部座席の同乗者がシートベルトを装着しない状態で交通事故によって死傷した場合,シートベルト未装着を理由として過失相殺されることがあります。

そこで,シートベルト未装着を理由とする過失割合が争われた裁判例を通じて,着目すべきポイントを,以下に説明します。

3 シートベルト未装着と損害の発生・拡大の因果関係

過失相殺が認められるためには,シートベルトを装着しなかったために,同乗者に損害が発生または拡大したといえなければなりません。

この点の証明は容易ではありませんが,事故態様,被害者の受傷内容,運転者や他の同乗者の受傷内容等,個別具体的な事情を総合考慮して判断することになります。

例えば,シートベルト未装着の同乗者が車外に放り出された,フロントガラスに全身を強打した,前席のシートに頭部を強打した等のケースは,因果関係が肯定されやすいでしょう。

シートベルトを装着していた他の同乗者との受傷内容や程度の差異を比較することは,有益な判断材料となり得ます。

加害者の過失の程度が著しく大きい場合,被害者にシートベルト未装着という過失があるとしても,損害の衡平の分担という観点から,過失相殺を否定した裁判例もあります。

4 具体的な過失割合の判断

実際にシートベルト未装着によりどの程度損害が拡大したかを明らかにすることは困難な作業ですが,具体的な過失割合は,事故態様,被害者の受傷内容,他の同乗者の受傷内容との比較,事故当時におけるシートベルト装着の普及率,訴訟の相手(相手方運転者か同乗運転者か)等,さまざまな事情を考慮して判断されます。

これまでの裁判例をみると,シートベルト未装着を理由として,およそ5%から20%の過失相殺がされています。