交通事故でペットが怪我をした場合の損害賠償
1 交通事故によるペットの怪我
交通事故の被害に遭うのは、必ずしも人だけに限られません。
たとえば、ペットの散歩中や、車に乗せていたときに交通事故に遭ってしまった場合、ペットが怪我をしてしまうこともあり得ます。
ここでは、ペットが交通事故で怪我をした場合に、相手方に対してどのような損害を賠償請求することができるのかご説明させていただきます。
2 ペットの法律的な取り扱い
ペットは生き物ではありますが、法律上は「物」として扱われることとなります。
つまり、ペットは飼い主の「物」、言い換えれば「財産」であり、ペットが怪我をした場合、法律的には、飼い主の財産権が侵害されたと解釈されることとなります。
3 ペットの治療費について
⑴ 上記のとおり、ペットの怪我は法律的には財産権の侵害として扱われ、その場合、加害者は、原状回復(事故前の状態に戻すこと)のための費用を負担することになります。
この原状回復のための費用として、ペットの飼い主は治療費を請求することができます。
⑵ なお、車の修理代が時価額を上回る場合は、同等の中古車に買い替えた方が安く済むということで、時価額の限度でしか損害賠償請求できないことがあります。
これと同じように、ペットの治療費も、本来はペットの時価額の限度でしか損害賠償請求することが出来ないと法律的には考えることとなります。
もっとも、裁判例では、ペットの時価額を考慮することなく治療費の賠償を認めているものもあり、その取扱いが確立しているわけではないようです。
参考リンク :下級裁判所裁判例速報
4 ペットが怪我をしたことに対する慰謝料
⑴ 大切に育ててきたペットが怪我をした場合に、飼い主が大きな精神的損害を被ることも少なくありません。
このような飼い主の被った精神的損害を慰謝料として請求できるかが問題となります。
⑵ 上記のとおり、ペットは「物」として扱われるため、原状回復のための費用が支払われれば、損害は元通りに補填されたことになります。
そのため、ペットが怪我をしたことに対する慰謝料は、原則として認められていません。
⑶ もっとも、これまでの裁判例の中には、飼い主の方が家族同様の愛情を注いで飼育していたペットが、交通事故に遭ったことよって死亡をしたり重傷を負ったりしてしまった事案において、飼い主の方が被った精神的苦痛に対する慰謝料の請求を認めたケースもあります。
たとえば、東京高等裁判所平成16年2月26日判決は、長年家族同然に飼ってきた愛犬が交通事故で亡くなった事案で、飼い主に慰謝料5万円を認めています。
また、飼っていた2匹の愛犬が死傷した事案について、慰謝料10万円を認めた裁判例もあります。
⑷ ただし、ペットが怪我を負ったり死亡をしたりしたことによる飼い主の慰謝料請求を認めた裁判例でも、慰謝料の額がそこまで高額になったものは少ないというのが現状です。
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