自営業者が後遺障害を負った場合の逸失利益
1 後遺障害逸失利益とは
- ⑴ 後遺障害とは
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交通事故に遭ってお怪我をされた場合、治療を受けても残念ながら症状が残ってしまうことがあります。
その場合、残ってしまった症状について自賠責保険に後遺障害等級認定を申請することで、後遺障害として等級の認定を受けることができる可能性があります。
後遺障害として認定がなされると、その等級に従い、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益という損害の発生が認められやすくなり、その分多くの賠償金が支払われることになります。
- ⑵ 自営業者の後遺障害逸失利益
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ア 後遺障害逸失利益とは
後遺障害逸失利益とは、後遺障害がなければ将来にわたって得られたであろう利益をいいます。
例えば、八百屋を営んでいる方が交通事故で後遺障害が残ってしまった場合、これまでのように商品の運搬や陳列、配達ができなくなってしまい、収入が減少してしまうことが考えられます。
この、後遺障害により減ってしまう利益は、実際にいくら減ったかではなく、後遺障害の等級により画一的に計算されることが多いです。
もっとも、後遺障害の内容によっては、等級どおりに計算できない場合もありますので、注意が必要です。
後遺障害逸失利益は、「基礎収入×労働能力喪失率×喪失期間に対応するライプニッツ係数」という方程式で算定されます。
イ 基礎収入額
基礎収入額は、原則として事故前の現実収入額とされます。
自営業の方の場合は、事故前年度の確定申告書をもとに基礎収入額が判断されます。
ウ 労働能力喪失率
労働応力喪失率は、労働能力喪失表を参考として、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況などを総合的に判断して評価します。
労働能力喪失表では後遺障害等級14級であれば5%、後遺障害等級12級であれば14%の労働能力が失われるとされています。
エ 労働能力喪失期間
自営業者の方であれば、定年がないのが一般的ですので、生涯現役で働く方もいらっしゃいますが、就労可能年数は特段の事情がない限り67歳とされます。
そして、後遺障害は一生残存するのが原則とされていますので、通常労働能力喪失期間は症状固定時の年齢から67歳までとされます。
ただし、むち打ち症の場合等、12級で10年程度、14級で5年程度に制限される例があります。
2 減収がない場合
後遺障害逸失利益は、上記したように将来にわたって得られたであろう利益を失うことで認められる損害です。
そのため、減収がない場合には後遺障害逸失利益はなしとなるのが原則です。
ただし、裁判例や判例等によると、事故前より努力して売上を維持したなど、減収がない場合であっても、将来の減収の可能性があると判断したときは、後遺障害逸失利益の発生を認めています。
そのため、減収がないからといって、必ずしも逸失利益がゼロと判断されるわけではありません。
自営業者の場合、通常問題となるのは、税金対策等により、実質的な収入と申告上の収入が異なる場合と、経費が問題となる場合です。
経費の一部は基礎収入として計上できる場合もありますので、適切な経費を適切に基礎収入に入れ込むことが重要です。
また、自営業者の場合、将来の収入減少が、雇用されている者に比較してわかりづらいという問題もありますので、将来の減収の可能性を基礎付ける要素として、具体的業務への支障の有無や、転職可能性の有無、被害者の努力の有無などの考慮要素についてしっかりと主張・立証することが重要です。
当面の減収がないときは、上記要素を主張し、将来の減収の可能性を立証できるかが大きなポイントとなります。
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