交通事故で後遺障害が認定された場合の損害賠償
1 慰謝料について
交通事故により負傷した方に対しては、負傷により被った肉体的・精神的苦痛に対する賠償として、傷害慰謝料(「入通院慰謝料」と呼ばれる場合もあります)が支払われます。
そして、負傷後、治療を継続したにもかかわらず、後遺障害が残り、これが自動車賠償責任保険(以下「自賠責保険」といいます。)における所定の後遺障害に該当するものと認定された場合、傷害慰謝料とは別に、後遺障害が残存したことによる肉体的・精神的苦痛に対する賠償として、後遺障害慰謝料が支払われます。
2 後遺障害が認定された場合の逸失利益について
また、後遺障害が認定された場合、被害者が就労している場合、あるいは将来就労の予定がある場合(例:幼児に後遺障害が残った場合など)には、後遺障害慰謝料のほかに、後遺障害による将来の労働能力低下と、これによる収入の減少を賠償するために、後遺障害による逸失利益相当額が支払われます。
3 後遺障害が認定された場合の慰謝料の算定
慰謝料については、後遺障害の等級に応じ、標準的な慰謝料額が実務上の慣行として存在し、この金額に沿った裁判や示談がされています。
これに対し、自賠責保険からの支払額は、上記実務上のものよりも低額であることが一般的です。
一例として、比較的多く見られる後遺障害として14級9号の後遺障害(頸椎捻挫などの後遺障害として、治療終了後も痛みが残存する場合など)がありますが、これに対する慰謝料の金額について、実務上の基準としては110万円とされているのに対し、自賠責からの保険金支払額は、慰謝料と逸失利益の両方を合わせて75万円が限度とされています。
そして、加害者本人に代わり賠償金を支払う立場である保険会社としては、なるべく支払額を抑えようとする結果、上記実務上の金額よりも低額である、自賠責保険の保険金額の範囲でしか提示しない場合もあります。
上記低額な提示は、弁護士を介さずに、被害者自身が保険会社に対し支払を請求する場合に生じることが一般的です。
弁護士が交渉の相手であれば、弁護士は、上記実務上の基準を知っており、これを下回る金額を提示してもこれに同意せず、示談が成立しないことについて、保険会社もよくわかっているためです。
このため、被害者の方としては、弁護士に依頼して保険会社と交渉するか、示談をする前に、保険会社から提示された金額が妥当な金額であるかについて、弁護士に相談することをお勧めします。
4 後遺障害が認定された場合の逸失利益の算定
逸失利益の算定は、被害者の事故発生前の年収(事故が発生した年の前年の年収に基づくことが多いです。)に、後遺障害等級で定められた労働能力喪失率(前出の14級の場合ですと5%)と、労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数(将来分を先取りすることによる利得をなくすための係数。例えば、5年先までの各年の収入を先取りする場合、その係数は、年収×5年ではなく4.5797(令和2年4月1日以降に発生した事故の場合)であり、5よりも小さい金額となっています。)を乗じて算定します。
労働能力喪失期間は、多くは、症状固定日(治療を継続しても症状の改善が見込まれないとされた日)から、一般的な労働能力可能年齢である67歳までの期間とされますが、頸椎捻挫などの、画像上の異常が認められない状態であるにもかかわらず、痛みのみが残存するような後遺障害の場合には、5年に限定されることが多いです。
また、年収について、30歳程度までの若年者や、主婦の家事労働能力の喪失に対しては、実収入ではなく、労働者の平均賃金にて算定することが一般的です。
若年者の場合は、将来の賃金の増額が見込まれること(若年時の低い賃金が生涯にわたって継続するものではないこと)、主婦については家事労働を金額に換算するに際し、平均賃金にて算定すべきとする最高裁の判例があることが、上記取り扱いの理由です。
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